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東京地方裁判所 平成2年(行ウ)72号 判決

原告

本立寺

右代表者代表役員

北見周文

右訴訟代理人弁護士

濱秀和

長谷川正浩

宇佐見方宏

大塚尚宏

被告

東京都練馬都税事務所長

梶岡勝士

東京都

右代表者知事

鈴木俊一

右両名指定代理人

和久井孝太郎

外二名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告東京都練馬都税事務所長が別紙物件目録記載の土地につき、原告に対し、昭和六三年四月一一日付でした昭和五八年度ないし昭和六一年度分の各固定資産税賦課決定及び各都市計画税賦課決定がいずれも無効であることを確認する。

2  被告東京都は、原告に対し、金三五八五万七〇二四円と、内金一一二八万四一〇〇円に対する昭和六三年五月二日から、内金一二二四万七〇四九円に対する平成元年三月八日から及び内金一二三二万五八七五円に対する平成二年二月二八日から、それぞれ支払済みに至るまで年7.3パーセントの割合による金員とを支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  第2項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文同旨

2  担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  (本件各賦課決定の存在)

被告東京都練馬都税事務所長(以下「被告所長」という。)は、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)につき、その所有者である原告に対し、別紙課税一覧表記載のとおり、昭和六三年四月一一日付で昭和五八年度分ないし昭和六二年度分の、昭和六三年五月一一日付で昭和六三年度分の、平成元年四月一一日付で平成元年度分の、各固定資産税賦課決定及び都市計画税賦課決定をした(以下、右の各年度ごとの固定資産税賦課決定及び都市計画税賦課決定は、当該課税年度によって「昭和五八年度分賦課決定」などといい、これを総称するときは「本件各賦課決定」という。)をした。

2  (納付)

原告は、被告東京都に対し、昭和六三年五月二日までに昭和六二年度分賦課決定に係る固定資産税及び都市計画税合計額一一二八万四一〇〇円を、平成元年三月八日までに昭和六三年度分賦課決定に係る固定資産税及び都市計画税合計額一二二四万七〇四九円を、平成二年二月二八日までに平成元年度分賦課決定に係る固定資産税及び都市計画税合計額一二三二万五八七五円を、それぞれ納付した。

3  (本件各賦課決定の無効事由一)

(一) 本件土地は、昭和五八年以前から、原告が学校法人東京女子学院(以下「女子学院」という。)に貸し付け、女子学院においては、これをその設置する中学校及び高等学校の校舎敷地及び運動場として使用してきた。したがって、本件土地は、地方税法(以下「法」という。)三四八条二項九号に定める固定資産、すなわち学校法人がその設置する学校において直接教育の用に供する固定資産に該当する。

(二) 法三四八条二項によれば、同項各号に掲げる用途に供されている固定資産に対しては、固定資産税を課することができないが(同項本文)、その例外として、固定資産を有料で借り受けた者が、これを右の用途に供する場合においては、当該固定資産の所有者に固定資産税を課することができるものとされている(同項ただし書。なお、法七〇二条の二第二項によって、法三四八条二項により固定資産税を課することができない土地に対しては都市計画税を課することもできない。)。

すなわち、固定資産税は固定資産の所有という事実に担税力を見出してその所有者に課税されるものであるが、同項各号に掲げる用途は、いずれも公益性ないし公共性のあるものであって、そのような用途に供されている固定資産については、その用途の公共性ないし公益性の故に固定資産税を課さないこととされているのである。そして、固定資産の提供を受けた者がこれを右のような用途に供する場合において、当該固定資産が無料で提供されているときも、その提供をした所有者自身がいわば犠牲的精神をもってこれを右の公共性ないし公益性のある用途に供するものといえるから、これに対して固定資産税を課することは不合理であるので、非課税とされているのである。しかし、固定資産の所有者がこれを有料で貸し付けている場合においては、当該固定資産がどのような用途に供されていようとも、その所有者において当該固定資産から一定の収入を挙げているのであるから、所有者の税負担能力について特別に配慮する必要はなく、固定資産税の納税義務を課しても不合理とはいえないので、例外として、当該固定資産の所有者に固定資産税を課することができるとされているのである。

このように、法三四八条二項ただし書は、同項本文に基づく非課税措置の例外であり、その適用により固定資産税を課される場合の担税力は、固定資産税を課しても不都合のない程度の金員の授受があったという事実に求められるべきである。したがって、同項ただし書の「有料で」とは、例えば賃貸借契約によって賃料を収受している場合のように、当該固定資産の提供に対してその対価を取得していることをいうものと解すべきである。

(三) 原告は、本件各土地を女子学院に貸し付けるについて、別紙金員受領状況表記載のとおり、昭和五八年一月一日以降昭和六二年五月までの間同表上欄記載の期間にその下欄記載の金員を女子学院から受領したが、昭和六二年六月以降は全く金員を受領していない。

昭和五八年一月一日から昭和六二年五月までの間に原告が女子学院から受領した同表記載の金員の額は、その各年度に本件土地に対し賦課決定された固定資産税及び都市計画税の合計額のそれぞれ26.52パーセントないし35.25パーセントに過ぎない。地代の額は、通常、公租公課の2倍ないし3.5倍程度であるとされているから、原告が、本件土地に対する公租公課の三分の一程度の金員を受領したからといって、これをもって本件土地を女子学院に使用させる対価としての地代であるということは到底できない。本件土地についての女子学院との間の賃借関係は、使用貸借であり、原告の受領した右の金員は、女子学院が原告に対し、謝意を表して、使用貸借関係を円満に維持するために支出した費用であるに過ぎないというべきである。

したがって、女子学院は本件土地を有料で借り受けた者に当たらないから、法三四八条二項九号に定める固定資産、すなわち学校法人がその設置する学校において直接教育の用に供する固定資産に該当する本件土地に対し、固定資産税及び都市計画税を課することはできない。

被告所長は、それにもかかわらず、女子学院が本件土地を有料で借り受けた者に当たるとして本件各賦課決定をしたものであり、その瑕疵は重大で、かつ、明白であるから、右決定は無効である。

4  (本件各賦課決定の無効事由二)

仮に、原告が女子学院から受領した右3の金員が本件土地使用の対価である地代に当たるとしても、その額は本件土地全体についてのものとするには過少であるから、右金員は、本件土地のうち右金額を地代としても妥当である範囲についてのものに過ぎず、右範囲を超える部分については、無償で女子学院に使用させているものと評価すべきである。

そして、右3のとおり、地代は、通常、公租公課の二倍を下回ることはないから、昭和五八年度分ないし昭和六二年度分各賦課決定のうち、これに係る固定資産税及び都市計画税の額の合計額が原告が女子学院から受領した金員の二分の一を超える部分は、固定資産税及び都市計画税を課することができない固定資産に対して右各税を課したものというべきであり、その瑕疵は重大で、かつ、明白であるから、無効である。

5  (本件各賦課決定の無効事由三)

仮に、原告が女子学院から受領した右3の金員が本件土地全部の使用の対価である地代に当たるとしても、昭和五八年度ないし昭和六二年度分賦課決定には、被告所長がその裁量権を逸脱して行った瑕疵がある。

もとより、租税法規は原則的にはその執行が法に覊束されており、課税庁に自由な裁量は認められていない。しかし、最終的に裁判所の審査に全面的に服するものとすれば、法が一定の枠内で課税庁に客観的合理的な裁量を認めたとしても、それを不合理とする理由はない。法三四八条二項ただし書は、固定資産税を、「当該固定資産の所有者に課することができる」と規定し、「当該固定資産の所有者に課する」とはしていないから、場合によっては、課税庁の裁量により、固定資産税を課さないことも認められているというべきである。

そして、本件土地の面積、原告が女子学院から受領した金員の額、これに対する本件各賦課決定に係る固定資産税及び都市計画税の合計額の割合に照らすと、本件土地に対しては、固定資産税及び都市計画税を課さないことが合理性を有するといえる。それにもかかわらず、被告所長は、本件土地に対し、当然に固定資産税及び都市計画税を課することができるものとして、昭和五八年度分ないし昭和六二年度分各賦課決定をしたものであるから、右各賦課決定には、重大かつ明白な瑕疵があって、無効である。

なお、東京都都税条例(昭和二五年東京都条例第五六号。以下「都税条例」という。)一二一条は、法三四八条二項各号に掲げる固定資産の所有者が、当該固定資産を有料で使用させる場合においては、「その所有者に対し、固定資産税を課する」と、固定資産税の賦課が必要的であるかのように規定しているが、普通地方公共団体の条例は、法令に違反してこれを制定することはできないのであるから(地方自治法一四条一項)、都税条例一二一条は法三四八条二項ただし書の規定を超えて課税権を認めたものではなく、同項ただし書と同様課税庁の裁量権を認めたものである。

6  (確認の利益)

昭和五八年度分ないし昭和六一年度分各賦課決定については、原告がこれに基づく滞納処分を受けて損害を被るおそれがある。

7  よって、原告は、被告所長との間で、昭和五八年度分ないし昭和六一年度分各賦課決定が無効であることの確認を求めるとともに、被告東京都に対し、不当利得返還請求権に基づき、右2の昭和六二年度分ないし平成元年度分各賦課決定に係る納付金の合計額に相当する金三五八五万七〇二四円と、内金一一二八万四一〇〇円に対する納付の日以後の日である昭和六三年五月二日から、内金一二二四万七〇四九円に対する納付の日以後の日である平成元年三月八日から及び内金一二三二万五八七五円に対する納付の日以後の日である平成二年二月二八日から、それぞれ支払済みに至るまで法一七条の四所定の年7.3パーセントの割合による還付加算金との支払を求める。

二  請求の原因に対する被告らの認否及び主張

1  請求の原因1及び2の各事実は認める。

2(一)  同3の(一)は認める。

(二)  同(二)のうち、法三四八条二項本文が同項各号に掲げられている固定資産に対しては、固定資産税を課することができないとしていること、同項ただし書が固定資産を有料で借り受けた者がこれを右の用途に供する場合においては、当該固定資産の所有者に固定資産税を課することができるものとしていること、法七〇二条の二第二項が法三四八条二項により固定資産税を課することができない土地に対しては都市計画税を課することができないとしていることは認め、その余の主張は争う。

(三)  同(三)のうち、被告所長が、女子学院が本件土地を有料で借り受けた者に当たるとして本件各賦課決定をしたことは認める。原告が本件土地を女子学院に貸し付けて昭和五八年一月一日以降昭和六二年五月までに、別紙金員受領状況表記載の金員を女子学院から受領したことは知らない。その余の事実は否認し、主張は争う。

3  同4及び5の主張は争う。

4  被告らの主張

(一) 被告所長は、昭和四九年以来本件土地が法三四八条二項九号に該当するものと認め、これに対して固定資産税及び都市計画税の賦課をしていなかった。ところが、昭和五九年頃女子学院の校舎及び建物について非課税調査をした際、女子学院の決算書類から女子学院が本件土地の貸借に関し原告に地代を支払っている事実が判明し、昭和六二年頃女子学院の担当者及び原告代表者から、右の事実の確認が得られたので、被告所長は、女子学院が有料で本件土地を借り受けているものと認定して昭和六三年四月一一日付で原告に対し昭和五八年度分ないし昭和六二年度分各賦課決定をし、さらに、その後も女子学院が本件土地の貸借に関し地代を支払っている事実に変更がないと認められたため、昭和六三年五月一一日付で昭和六三年度分賦課決定を、平成元年四月一一日付で平成元年度分賦課決定をした。

(二) 土地の貸借に関して金銭の授受があっても、その額が当該土地に対する固定資産税及び都市計画税の合計額を大きく下回る場合には、法三四八条二項ただし書の「有料で借り受けた」場合に当たらないと解するものとすれば、どの程度の額の金員の支払があれば有料の貸借に当たり、どの程度の額の金員の支払であれば当たらないかについて一定の客観的な基準が必要となるが、これを見出すことは極めて困難である。仮に、その基準を固定資産税の額(又はこれに都市計画税の額を加算した額)とすれば、土地の所有者は、地代が右固定資産税の額(又はこれに都市計画税の額を加算した額)と同額であれば収受した地代額と等しい額の課税を受けるのに対し、地代が右の額を僅かでも下回っていれば全く課税されないという公平を欠く結果を招くことになる。

また、個別の案件ごとに、当該地代の額、周辺土地の地代の額、当該土地の貸借当事者間の関係その他諸般の具体的事情を総合勘案して、「有料で借り受けた」場合に当たるかどうかを判断すべきものとすれば、徴税行政の安定と円滑な運営が阻害される結果となることは明らかである。

したがって、土地の貸借に関して、借主から貸主に対し一定額の金員の支払ないしその合意があると認められる場合には、その金額の多寡にかかわらず、法三四八条二項ただし書の「有料で借り受けた」場合に当たるものと解すべきである。

三  以上のとおりであるから、被告所長が、女子学院は原告から本件各土地を有料で借り受けていると認定したことに何ら違法な点はなく、本件各賦課決定に重大かつ明白な瑕疵は存在しない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求の原因1(本件各賦課決定の存在)及び同2(納付)の各事実は当事者間に争いがない。

二請求の原因3(本件各賦課決定の無効事由一)について

1  請求の原因3の(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  原告が、その主張の額の金員を、本件土地の使用に関し、女子学院から受領してきたことは、その自認するところである。そして、その受領額については、後記のとおり、ほぼその主張のとおりであると認められる。原告は、右金額は、本件土地に賦課される固定資産税及び都市計画税の合計額の三分の一程度にしか達していないから、本件土地の提供の対価とはいえず、右土地使用は法にいう「有料」のものとはいえないと主張する。

3  原本の存在及び〈書証番号略〉並びに同証人〔伊東芳夫―編注〕及び証人酒井涬の各証言に前記争いのない事実を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  女子学院は、昭和一一年の創立にかかり、本件土地は、その一部をその頃原告より借り受け、その後何回かに分けて借り増し、現在の面積となった。当初の契約が有償であったかどうかは、現在契約書が残っておらず、不明である。

(二)  本件土地の使用関係については、昭和三〇年一月一五日付の原告と女子学院との間の土地賃貸借契約書が保存されており、それによれば、当時の右当事者間の契約においては、ほぼ現況に等しい(契約書上「一〇〇〇坪」とある。)面積の賃借地につき、賃料を月額坪当たり四円とし、借主が六か月以上賃料の支払を怠ったときは契約を解除できる旨の条項が設けられていた。

(三)  原告は、女子学院から、本件土地の使用に関して、次の額の金員(月額)を受領してきた。

(1) 昭和三四年九月から昭和三七年三月まで

三万円

(2) 昭和三七年四月から昭和四〇年三月まで

四万円

(3) 昭和四〇年四月から昭和四九年三月まで

五万六〇〇〇円

(4) 昭和四九年四月から昭和五二年三月まで

一六万円

(5) 昭和五二年四月から昭和五五年三月まで

二〇万円

(6) 昭和五五年四月から昭和六一年三月まで

二七万円

(7) 昭和六一年四月から昭和六二年三月まで

三二万円

(8) 昭和六二年四月から

三七万円

(四)  学校法人として、毎年公認会計士の監査を経たうえ、数年に一度所轄官庁である東京都の監査を受けている女子学院の財務計算書類中の資金収支計算書によれば、女子学院は、原告に対し、賃借料として、次の金額(年額)を支出したものとされている。

(1) 昭和五八年度 三二四万円

(2) 昭和五九年度 三二四万円

(3) 昭和六〇年度 三二四万円

(4) 昭和六一年度 二八八万円

(5) 昭和六二年度 一七〇万円

(6) 昭和六三年度 五九四万円

(7) 平成元年度 四四四万円

また、同計算書類の平成元年度分にある財産目録には、資産の部に借地権として本件土地に関するものが金額三七二万二四四〇円の価値あるものとして記載されている。

4  右認定事実及び前記争いのない事実によれば、原告と女子学院との間においては、かつて、坪当たり月額四円として通常の賃貸借契約書が作成されたことがあり、女子学院においては、本件土地の使用に関して支払う額を賃借料と観念して、そのように資金収支計算書に記載し、またその使用権を借地権であると観念して、そのように財産目録に登載していること、女子学院からの支払額も、低廉であるとはいえ、昭和三九年以来一定の期間をおいて相当の増額がされてきていることが認められ、これらの事実は、本件土地使用関係が賃貸借契約に基づくものであるとの事実を強く推測させるものである。しかし、その一方において、右事実によれば、原告が昭和五八年以来本件土地の使用に関し、女子学院から受領している金員の額は、各年度に右土地に対して賦課される固定資産税及び都市計画税の合計額の26.52パーセントないし35.25パーセントに当たるに過ぎないことが認められるのであり、このような額は、土地使用の対価としてはいささか低廉に過ぎ、これを賃貸借契約における賃料というには躊躇を覚えるのも事実である。もっとも右金員は、昭和六一年度においては年額三八四万円に達していて、この額は、単に謝礼というには多額に過ぎるともいい得るのである。

そして、「有料で」との文言は、財務や役務等の利益の提供について金員の支払を必要とすることを意味するにとどまり、当該金員の額が当該利益の提供と対価性を有することまでを意味するものとは解されない。のみならず、固定資産税及び都市計画税が土地等に対しその所有者に課され、その課税標準は当該土地等の価格とされている(法三四二条、三四三条、三四九条、七〇二条)ことにかんがみると、固定資産税及び都市計画税は土地等の所有という事実に担税力を見出して課する財産税の一種であると解され(法三四八条二項ただし書の適用される場合においてもこれと別異に解すべき理由があるとはいえない。)、当該土地等にかかる収益の有無や多寡はその課税と直接関連するものとはいえない。そうすると、同項ただし書の「有料で」とは、当該土地等の貸借と関連して、借主が貸主に一定の金員を支払う旨の合意が成立し、その合意に基づく債務の履行として金員を支払うべき関係が存在することをもって足りるものであって、その金員の額が取引上当該土地等の貸借の対価に相当する額に至らないものであっても、それが社会通念上無視しうる程度に少額である場合を除き、なお、「有料で」借り受ける場合に当たるものと解するのが相当である。

5  右に述べたところにより、前記事実をみれば、女子学院が本件土地の使用に関し、原告に前記金額の金員を支払っているのは、その増額の経過などからみて、女子学院の一方的な贈与などではなく、原告との合意に基づくものと推認されるのであり、その金額も、前述のように、単に謝礼とするには多額に過ぎ、もとより社会通念上無視できる程に少額であるとは到底いえないのである。

そうすると、女子学院は、法三四八条二項ただし書にいう有料で借り受ける者に当たると認めるのが相当である。もっとも、証人酒井涬の証言により真正に成立したと認める〈書証番号略〉によれば、原告と女子学院との間には、昭和五五年一月土地無償貸借契約書という契約書が作成されたことのあることが認められる。しかしながら、同証人の証言によれば、右契約書は、原告の先代の代表役員である北見隆賢が、課税当局から無償貸借であれば本件土地に固定資産税等が課せられないと聞いて、その対策のため女子学院に依頼してこのような書面の作成に協力させたものと認められ、女子学院としても、その財務書類によれば、原告に対して借地権を主張しうると考えていることが窺えるから、特別の事情もないのにそのような借地権を放棄することとなるこのような書面を作成するとは考えられないのであって、右契約書は、当事者間の真実の契約関係を反映するものとは認められず、右契約が有料であるとの認定を妨げるものではない。また、証人酒井涬は、女子学院が支払った金額は、謝礼の趣旨であるとの証言をするが、これは、その理事長を務める女子学院が監査のため作成した財務書類の記載内容に反するものであって、採用できない。

6  なお、原告は、昭和六二年六月以降は女子学院から本件土地の使用に関し一切金員を受領していないと主張する。右主張は、〈書証番号略〉の記載とは矛盾するものであるが、仮にそのような事実があったとしても、それ故に従来有償であった本件土地使用契約が、何らの新たな合意なく無償の契約に変更されることとなるとはいえないから、右主張は、本件土地使用の有料性の判断に関しては意味がないといわなければならない。

三請求の原因4(本件各賦課決定の無効事由二)について

原告は、昭和五八年一月一日から昭和六二年五月までの間に原告が女子学院から受領していた金員は、本件土地のうち右金額を地代としても妥当である範囲についてのもの(その固定資産税及び都市計画税の額の合計額が右金員の額の二分の一に相当する範囲の土地)に対する地代であり、その余の土地については、無償で女子学院に使用させているものと評価すべきであると主張する。

しかし、固定資産税及び都市計画税の課税要件となるべき事実について、法の特別の定めがないのに、現実の事実関係を離れてこれと異なる一定の観点に沿った事実を認定することはできないから、右主張は、当事者間において主張の金員が現実に主張の範囲の土地の地代として支払われ、その余の土地については無償で女子学院に使用させるとの合意がされていたとの趣旨のものであると解せざるを得ない。そうであるとすれば、原告の右主張は、主張の金員が地代として支払われていた範囲の土地を特定していないから、それ自体失当というべきである。のみならず、〈書証番号略〉、証人酒井涬の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件各土地は一団の土地であって、原告と女子学院とはこれを一体のものとして貸借をした上、かかる貸借と関連して成立させた合意に基づいて女子学院が原告主張の金員を原告に支払ったことが認められるから、原告の右主張はその前提からして認められない。

四請求の原因5(本件各賦課決定の無効事由三)について

原告は、法三四八条二項ただし書が固定資産税を「当該固定資産の所有者に課することができる」と規定し、「当該固定資産の所有者に課する」とはしていないことを根拠に、課税庁の裁量により、同項ただし書に当たる場合でも固定資産税を課さないことも認められていると主張した上、これを前提として、本件各土地に対しては固定資産税及び都市計画税を課さないことが合理性を有するといえるから、昭和五八年度分ないし昭和六二年度分各賦課決定には、被告所長がその裁量権を逸脱した違法があると主張する。

しかしながら、同項ただし書が、固定資産を有料で借り受けた者がこれを同項各号に掲げる固定資産として使用する場合に「固定資産税を課することができる」と規定した趣旨は、右の場合に固定資産税を賦課するかどうかを課税権者である地方公共団体の裁量に委ねたものであると解すべきであるから、地方公共団体はその条例によってこの点についての定めをしなければならない(法三条一項)。したがって、地方公共団体の条例により、右の場合に固定資産税を賦課するかどうかをさらに課税庁の裁量に委ねた場合を別にすれば、個々の賦課決定ごとに課税庁が固定資産税を賦課するかどうかの裁量を有するものではない(法七〇二条二項によれば、法三四八条二項の規定により固定資産税を課することができない土地等に対しては都市計画税を課することができないとされているから、以上の点については都市計画税も同様である。)。そして、都税条例一二一条によれば、法三四八条二項各号に掲げる固定資産の所有者がこれを有料で使用させる場合においては、「その所有者に対し、固定資産税を課する」とされており、また、都税条例の右の規定は都市計画税の賦課徴収について準用されているから(都税条例一八八条の二六第二項)、東京都においては右の場合に課税庁である都知事が固定資産税及び都市計画税を賦課するかどうかについて裁量を有していないことは明らかであり、原告の右主張は、その前提において失当である。

五結語

以上によれば、本件各賦課決定に重大かつ明白な瑕疵があるとする原告の主張は失当であり、原告の本件各請求は理由がない。

よって、本件各請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中込秀樹 裁判官石原直樹 裁判官長屋文裕)

別紙物件目録〈省略〉

別紙課税一覧表〈省略〉

別紙金員受領状況表〈省略〉

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